ワーク・ハード、プレイ・ハード

2003年/99分/カラー
監督:ジャン=マルク・ムトゥ
脚本:オリヴィエ・ゴルス、ジスレン・ジェグ=エルゾグ、ジャン=マルク・ムトゥ
出演:ジェレミー・レニエ、ローラン・リュカ、シリア・マルキ

フィリップは育ちの良い25歳の青年。都会でチャンスを掴み、大企業コンサルタント会社に入社した。その出社初日、彼は若きシングルマザーエヴァに出会い、恋に落ちる。2人が愛を育む中、彼の初仕事は工場買収のための、解雇リストの作成だった。自身に階級差別意識などないと感じていた青年が、仕事を通じてヨーロッパ社会に根強く残る階級差に葛藤するようになる。そして、人情や良識を大切にする価値観を持ったエヴァと、効率と利益を求められる価値観の企業という狭間で悩み始める。リアルでオリジナルな描写が絶賛された、新人監督の挑戦作だ。

はじめて社会に出た日。希望と理想に心をふくらませる青年。エリートばかりの職場の一員になり、自分も大きなチャンスを掴もうと思っている。しかし現実は違った。初めての仕事は工場の解雇リスト80名分の作成。社員を面接してみるものの、対象となるのは弱い立場の人ばかり。その上、仕事内容を恋人エヴァに否定される。仕事を辞めようか悩むが、苦労して手に入れた今のポジションをたった3ヶ月で降りることもできない。そして心を鬼にして、仕事を着手することにした。工場員の批判は絶えないが、自身の保身を覚えていく青年…。そして良識ある青年は、徐々に会社の「ワークハード・プレイハード」という精神を受け入れるようになる…。

会社を存続するためにリストラを決断する人、リストラ要員を選ぶ人、リストラされる人……それぞれの立場に正当な思いがあり、誰が正しいわけでも間違っているわけでもない。この作品では、その事実に対して肯定も否定もせず、葛藤しながら変化していく青年像を描いている。筆者の普段の人間関係でも、大きな組織に入って、組織と個人の見識の違いに悩む人を多く見てきただけに、この青年像がとてもリアルに見える。そして、作品では、この変わっていく青年への判断を観るものにゆだね、解答は自分自身で出してください、と語りかけているようだった。観た後にどんな感情が残るかで、自分自身の価値観もみえてくる、奥の深い作品だ。