フランス映画祭2004 総論

「この映画祭が終われば夏が来る」と語られ、すっかり横浜の風物詩となったフランス映画祭。今年は12回目を迎え、2004年6月16日(水)から20日(日)までの5日間、パシフィコ横浜にて開催されました。

17日(木)のオープニングセレモニーでは、フランスの俳優・監督ら約100人が参加し、ドレスアップして登場しました。会場を沸かせたのは、特別ゲストとして現われ、カンヌ映画祭で男優賞を受賞した柳楽(やぎら)優弥さんの存在。「カンヌ受賞は審査員のおかげです」とコメントすると、審査員も務めたエマニュエル・ベアールは「カンヌでは審査員の誰もがヤギラにひとめぼれして、心奪われた。女性として母として、彼を抱きしめたい」と称え、祝福のキスを贈りました。

20日(日)のクロージングセレモニーでは、エマニュエル・ベアールが「映画が好きな私たち、映画の中で生きている私たちにとって、この横浜、そして日本は避けて通ることの出来ないところ、登竜門といってもいい。5日間、全てを忘れて楽しく過ごさせてもらった。皆さん方の本当に好奇心に満ち満ちた熱い視線を受けることは、私たちにとって感激する一瞬でもありました。心から観客の皆さん、横浜市にお礼を申し上げたい」と感謝の言葉を述べました。

今年新たに誕生した、観客の投票によって決まる観客賞では、プレゼンターとして別所哲也が登場。ショートショートフィルムフェスティバル実行委員長も務める別所さんは、映画祭同士が兄弟のように成長できる関係に喜びを述べながら、「べアールさんの隣にいれて光栄です。今夜夢に出てくると思います。」と会場をひと沸かせした後、発表しました。

受賞したのは、個性派俳優リシャール・ベリの監督作『ぼくセザール 10歳半 1m39cm』。ベリ監督は「この映画のテーマは子供のころだが、人間の中で一番すばらしいのは子供のころ、幼年期時代だと思う。人間はすぐ子供のころのことを忘れてしまうが、子供の世界は普遍的で、すべての人の心に響くもの。大人が全員子供のときの心を持っていれば、世界がより平和になっていくことを確信している」と挨拶し、「観客賞は賞の中で最も重要」とさらに喜びの表情を見せました。

全体を通して見ると、今回の映画祭では19作品が上映されましたが、「新しい何か」を予感させる作品が多く見られました。初監督作品でありながらカンヌ映画祭国際批評家週間部門で見事グランプリを受賞した『クレールの刺繍』、「ゲイフィルム」というカテゴリーを超えて評価を受けた『ワイルド・サイト』、大作映画が有名な監督ブノワ・ジャコが異色の白黒デジタルで撮影を試みた『いつか会える』と作品全体にも見られますし、人間にフォーカスを当てても『ナタリー…』で女優エマニュエル・ベアールが新たな挑戦と思わせる演技を見せています。

そして、もう一つ特筆すべきはコメディの作品が多く見られたこと。カリスマ的人気を誇るコメディアン、ブノワ・ボールヴールドが出演した『スターは俺だ!』、フランスで大ヒットした『マリアージュ!』、くすりとした温かい笑いに満ちた『お先にどうぞ』『父と息子たち』など、昔からフランスではコメディ映画の人気が高かったことを再確認させました。

フランスという国自体、新しい文化を積極的に認め、創造的変化を受け入れるという意識と、昔からの伝統・文化を守りつづける意識、相反するものを融合させた国です。そのフランスらしさが、映画の作品選びにも反映されたのではないか、と思わせるセレクションでした。

もうすぐ夏がくれば、観客賞を受賞した『ぼくセザール 10歳半 1m39cm』も公開され、その後も続々と配給作品が決まるでしょう。今回の映画祭が、どう日本の映画市場に影響を与えたのか、また来年までじっくり観察するのも楽しいですね。