刺繍する女

2004年/88分/カラー
監督:エレオノール・フォーシェ
脚本:エレオノール・フォーシェ、ガエル・マーセ
出演:ローラ・エマルク、アリアンヌ・アスカリッド、マリー・フェリックス

まだ17歳の若さで子どもを宿していることを知ったクレアは、生みの親が子どもの出生を届け出ず親権を放棄する「匿名出産」で子どもを産むことにした。周囲の人間から妊娠を隠すためにクレアが身を寄せたのはオートクチュールの刺繍職人メリキアン夫人の家だった。日を追うごと、刺繍の一針ごとに、クレアのお腹が大きくなるにつれ、2人の間が変わっていく。メリキアン夫人から、刺繍の技巧だけでなく、親・子・母・娘といった人間関係の愛情というものが伝授されていく…。

子どもを授かるが育てない決断をしたクレアと、事故で息子を亡くしたメリキアン夫人。二人がやり取りをする様は、刺繍を一針一針、ゆっくり細やかに進めていくかのように、静かで美しい。窓から射す柔らかな光、刺繍の美しさ、少女の白い肌と赤い髪、など映像の美しさは、まるでフェルメールの絵画のよう。台詞も少なく、淡々とした印象だが、それが逆に高尚な雰囲気となり、まるで上質な文学作品を眺めているようだった。

倒れたメリキアン夫人をクレアが毎日見舞いにいき、お腹が大きいクレアをメリキアン夫人が気遣うさまは、確かな愛情が流れていて本物の家族よりも、家族らしかった。「匿名出産」という制度も日本では存在しないため、フランス独自のテーマとなっている。妊娠して子どもが生まれた後の選択の多さ、擬似家族のような関係など、多様な家族のあり方を容認するフランス文化がふんだんに現れた作品である。